※花ゆめ2010年9号ネタバレ
※「甘えて、5題」の「甘い声音で、ささやいて」のカイン視点になります。
上記の話を読んでから、こちらを読んだ方がいいかと思いますが、強要はしません。
何度か、目を覚ました妹役の少女を敦賀は同じベッドの中で、彼女が目を覚ますと、その度になだめすかしていた。夜半過ぎた頃に、妹はようやく深い眠りについた。寝息からしてもう朝まで目覚めることはないだろう。
すっかり寝入ったふうの寝息を聞いて、敦賀はため息をつく。
――最上さんは、どこまで………演技なのだろうか。
セツカは妹。そしてその妹の世界の中心は自分であるカイン。そうなったのには、理由があって、今、セツカは兄の手によってようやくそのトラウマから逃れ、眠っている。
カインの腕の中で。
――どうして、こんな、設定なんだ…………。
最上の、役にのめりこむ集中力をかなり見てきているので、そこは知っているつもりだ。しかしこういうところまで、役にのめりこむのはすごい。
というよりは、自分が役に徹しきれないのが、情けない。
最上が相手でなければ、自分も最上より、いや彼女以上に、2人の時でも役に徹し切れたはずだ。
風が強い日、セツカは幼い記憶をフラッシュバックさせる。
カインは彼女を守ろうと、心にひそかに誓ったくらいに、それは根深いものだ――。
だから風の強い日は、出来るだけ妹のそばにいる。
――だからって、結局同じベッドに寝ることはないだろう……………。
そう云ったのは自分だ。あの時は、ちゃんと兄になれていた。しかし最上が敦賀のベッドに入り込むと、兄になりきれない自分がいた。
――この設定を作ったあの人を呪う…………!
まるで妹のセツカがそこにいるように、最上は目を覚ました。兄になりきれなかった敦賀はずっと眠れずにいて、その演技に驚いた。
怖い夢から覚めたように、ハッと目を覚ますのだ。しかも汗をかいて。
――ずるいなぁ………。
本当なら、そんなことも考えないくらい自分も演技しているはずなのに、いつも彼女は敦賀に戻してしまう。
カインとして出会った時もそうだった。
――もっとも、これが舞台や、カメラの中でだったら、絶対に容赦しないんだけどね。
これは自分をかなり甘やかしてしまっている言葉なのだが、どうにも戻されてしまうので、これが精いっぱいの虚勢だ。
2人の時もギリギリなんとかなっているとは思うのだが、こういう瞬間に元に戻るのは、やはりダメだ。
カインなら今、妹が眠ったのを確認して、明日の撮影のためにもうひと眠りするところだ。しかし敦賀に眠気はまったく訪れない。もっとも、セツカが目を覚めたその動きでカインは目を覚ます設定も最初から意味をなくしている。
自分に禁じたのに、走ってしまった気持ちは、自覚すらないはじまりも根深かった。
最上を起こさない程度に、小さくため息をついて、無邪気に眠る彼女を見る。
――こんな兄さんで、ごめん。
その言葉は音にならなかったのに、最上はきゅうっと、カインの夜間着を握りしめる。
「〜〜〜っ!」
――この妹は、最強だ。
敦賀はそっと笑って、最上の身体を抱きしめるように腕を回した。
理性は保つ。
それは、敦賀の気持ちが壊されてしまう可能性があるのを、自分でわかっているから。
――特別な、ぬくもり。
女性の中で、敦賀をこんな甘い気持ちにさせるのは彼女しかいない。その彼女が演技とはいえ、自分に全面に身を置いてくれている。異性として見られていないと落ち込むのも可能だけど、こればかりは役得と思ってしまおう、と開き直って目を閉じた。
end 100411up
『甘い声音で、ささやいて』カイン版です。←の話のラスト数行をカインさんに懊悩してもらいました!
カイン視点を書いてみたいと思ったら、なんというか全然割りきれていない敦賀さんが出てきてしまいました。なので、人称がカインと両方出てきてしまって、読みづらくてすみません。
日にち的に全部埋められない気がするので、書きたいものから書きました。まぁ、前のお題も時列はあまり関係ない、気はするんですが。あと、短めに、とか。
カイン視点で書けば、連キョになるのかもしれない。でも兄に依存して、慕う妹にも萌える……!
まぁ、結局私はカインとセツカが好きってことで。てか夢中。
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