容姿が好き、オーラが好き、性格が好き。
 だから性別は気にならない。

 製菓部の他のメンツが学年行事でいないため、部室には部長の湯瀬と葵の2人きりだった。
 葵と2人なのがうれしいのか、湯瀬はいつも以上にいきいきした表情で菓子を作った。葵に座らせて、すぐ出来るものを作って、食べてもらい、それでも手は休めない。
 ――なんか、いつも以上にペース早くねえか?
 手伝おうとしても、初歩の初歩でも逆に迷惑をかけてしまう葵はおとなしく、湯瀬の手捌きを出された菓子を食べつつ、感心して見ている。
「いつもながらに手際いいよなー」
 呟く葵の声が聞こえたのか、湯瀬がこちらを見て、にこっと笑う。その間も手を止めていないのはさすがと云うべきか。
「ありがとうございます。貴女がおいしそうに食べてくれるから作りがいがありますよ」
 ――う。
 製菓部の面々はそれぞれに個性が違う美形揃いだ。しかしそれ以上に葵が彼らの性格が気に入っている。
 けれども、不意の美形の満面の笑みはやはり心臓に少し悪い。
「そ、そうか?」
 葵の言葉に、湯瀬は大きく頷いた。
「はい。本当なら菓子を作らずに、あなたと二人っきりを堪能したいですが、俺の作ったものをあなたが食べてくれるというのもなかなか捨てがたくて……」
 ――ホント、こいつ、あたしのこと好きなのな。
 湯瀬があまりに幸せそうに笑うので、他人事のように思う。そのくらい、今の関係では実感はわかない。でもこういう瞬間に、たまに思い知らされる。
 ――それに………。
 自分を認めてくれた製菓部だが、やはり時折申し訳なく思う時がある。
「男でなくて悪かったな」
 初めての異性からの告白は、葵を男としてのものだった。初めは怒ったし、ショックだったけれど、普段自分が冗談でも女子の友人たちに「葵の方がいい」と云われたりするに、仕方のないことだったのかもしれないと若干あきらめた。
 その告白した本人に「先輩ならどちらでもいい」と云ってもらえてうれしかったが、なんというか好きな先輩に対する態度か時折悩んでしまって、どういう態度を取ればいいのかわからなくなる。
 菓子の腕も問題ではあるのだが、そこは要努力だ。性別は努力でなんともしようがなく、葵もなんともする気がないので、さすがに良心がとがめる。
 葵の言葉に、きょとんと目を丸くした湯瀬はゆっくりとやわらかい笑みを作った。
「いいえ。俺は今はそんなこと、気にしてません」
「えっ…………?」
 言葉ではっきり云われて、葵は面食らう。
 ――なんとなく、はぐらかされそうな気がしたから………ちゃんと答えてもらえるとは思わなかった………。
 葵の視線をそっとそらすように、かきまぜているボールに落とす。
「先輩は、」
 そしてまた視線を上げて、葵を見つめる。
「先輩のままでいいんです」
 まっすぐな言葉に、真摯なまなざしに射竦められる。
「それ……前にも云ってたな」
 湯瀬の云ったその言葉は、今も葵の中に優しく響いている。
「ええ。――性別を間違えたから幻滅した、とか云う話もあるけど、先輩に関して、それは全くありませんでした」
 褒められているのだかわからないが、ここは一応礼を云っておく。
「そ、そりゃどーも」
 葵が照れたように云うのに、湯瀬は微笑んだ。
「俺が一番好きなのは、――男らしくても、男になろうと思わない、先輩です」
「―――っ!」
 葵は目を丸くした。
 ――す、するどいな〜〜〜〜!
 男みたいとは云われても、別に男になろうという気はない。女らしくの努力もしているとはいえないが。
 実際、湯瀬からの告白を、喜んだのである(もっともその夢はすぐに破れてしまったのだが)。
「そうでしょ?」
 首を傾げて、にこっと笑う。
「ああ……」
 気まずさに自分の頭を撫でて頷くと、予想に反して、湯瀬は満足そうに笑った。
「いいんです。俺が今、一番大事なのは、先輩が自分の意思でそばにいてくれることなんですから」
 前に改めて入部した時、『湯瀬を理由に』ではなく、『自分の意志』で湯瀬に入部届けを出したのだった。
 そのことを思い出すとなんとなく恥ずかしい。
「そ、か。お前がいいって云ってくれるなら、よかった」
 結局はそこに戻る。それは湯瀬のご機嫌をうかがっているわけではなく、彼がうれしいと自分もうれしいからだ。
 顔を綻ばせる葵に対し、湯瀬は少し拗ねたような口調で小さく継いだ。
「ま、でも、不満はあるんですけどね」
「へ?」
 すると湯瀬はボールを置いて、葵の方に歩いてきた。部室内にそんなに距離を取っていたわけでもないので、すぐに葵のところに来て、そして云った。
「もっと、俺のこと、見てほしい、とか、夜も寝られなくなるくらいに俺のこと考えてほしい、とか………、」
 座る葵の上に覆いかぶさるように、湯瀬はどんどん近付いてくる。
 ――この距離に、慣れないんだよ……!
「え、うわ、湯瀬っ!」
 同時に、チーン、とレンジが鳴った。
 けれどもそれにも、葵の制止にもひるまずに湯瀬は距離を縮めてくる。
「おまえっ、離せって云ってんだろっ!」
 どかっと、湯瀬に蹴りを入れて、力づくでどかせる。
「仕方ありませんね。では焼き上がったマドレーヌ、一緒に食べましょう」
 苦笑気味に云うのに、ほっと安堵の息をつきながら、葵は大きく頷いた。
 告白されたのはうれしかったが、やはりまだ自分には早かったような気がしてならない。それに湯瀬の誤解もあったりするので、すんなり受け入れられない。
 ――このままでいっかなあ。
 製菓部のひとときも気に入っている。
 葵はそう結論づけて、お茶のお代わりと焼き上がったマドレーヌに意識を向けたのだった。



 End 100201up
 む、難しい〜〜〜! コミックを読んだ時には押領寺の話しか出て来なくて、う〜〜〜んとしていて、やっと湯瀬の話が出てきたとしたら、あの男、しっぽ見せやがらねえ! 捏造もいいとこですが、書けたのは満足。押領寺も好きですが、やはり葵の本命は湯瀬だと思うので書きたかったんですよう。