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【繋いだ手】 ぎゅっと手をつかまれて、藍澄は身を強張らせた。 暗闇の中で、藍澄の手を握った人物が笑った気配がした。 「大丈夫だよ、藍澄」 明るい声は、暗闇の中まで照らしてくれるようで、心強い。 ――そうだ、いつもこの声に励まされていた。 様々なことを思い出し、強張った身体の緊張が抜ける。「俺が、なにがあっても、守るから」 「……ありがとう」 藍澄はほっとしたように、云った。 自分と同い年なのに、男の子だ。 目線は同じくらいだが、細身の身体からは信じられないほど、身体を鍛えているのを知っている。見た目以上にたくましいはずだ。繋がれた手も、指が太く、手のひらは藍澄の手をすっぽり包み込めるほど、大きい。 安心したように、藍澄はルシオの肩に頭をもたせ掛ける。 「ルシオくんが、そばにいてくれてよかった」 帽子越しだったために、ルシオの身体がぴくり、と揺れたのに藍澄は気付かない。 トレーニングルームに来た時に、艦内で突然停電になった。 暗くなった瞬間、状況にあわてた藍澄を「藍澄、大丈夫?」と云いながらルシオは優しく抱き寄せた。 宇宙に旅立ってから、停電は時折あるので独りでももうパニックになることはないが、やはり誰かと一緒にいるのは心強い。 「俺も、藍澄と一緒でよかった」 「ルシオくんも暗闇、苦手?」 意外な言葉に藍澄が問うと、ううん、と声とともに首を横に振られる。そして握った手を少し強く握り締められる。 「そういうわけじゃなくて、なにかあった時に、藍澄のそばにいたいから」 その言葉に、藍澄は赤くなる。頬が熱くなるのを止めるように、云った。 「………停電からなにか起こることないよ?」 今までだって、停電から戦闘になることはほとんど無かった。あったとしても、電源は戻っての戦闘だし、停電自体は戦闘と関係ないことでの原因がある。まして艦内に誰かが潜入することは皆無だ。 「――でも、やっぱり心配だよ」 駄々っ子のように云われて、思わず微笑んでしまう。 「藍澄?」 笑ったのに気づいたのだろう、ルシオが不思議そうに名前を呼んだ。 「なんか、ルシオくんにわがまま云われてるみたい」 「わがままでもいいよ。藍澄のそばにいられるなら」 「〜〜〜〜〜っ!」 まっすぐな言葉は、彼本来の性格を現わすほど、強い。――それに……、私もうれしいと思っている。 どうしようか考える。けれどもありがとう、の言葉すら云えない。 つかまれた手が、また強く握り締められる。 ――やっぱり、なにか云わなきゃ! 思った時、ぱっと室内が明るくなった。 「明るくなったね」 暗闇からいきなりまぶしくなって、目をぱちぱちさせながらルシオの言葉を聞いた。 「うん、そうだね」 そして、二人を繋ぐ、手を見る。 ――やっぱり、大きくて、……男の子の手だ。 「あ、ごめんね!」 藍澄の視線に気づいて、ルシオがあわてたように、手を離す。そういう意味ではないのに、少し誤解されたみたいだ。藍澄は首を横に振った。 「ううん、大丈夫」 「でも残念」 自分の手を見つめるルシオに、藍澄は首を傾げる。 「?」 「手、ずっと、繋いでいたかったなぁ、って」 「―――っ!」 顔が真っ赤になったのが、自分でもわかる。目を伏せつつも、ちらり、とルシオを見れば、彼の顔も赤い。気まずい沈黙が流れる。 『艦長、どこにいるんですか?』 破ったのは、艦内放送の雪乃の声だ。藍澄はあわてて、その声に応えた。 「雪乃さん、トレーニングルームにいます」 『今の停電の影響による被害を調べているところです。特に航行に支障をきたすことはありませんが、ブリッジにお戻り下さい』 「はい、わかりました」 『そこに誰かいるようでしたら、ブリッジまで送ってもらってください』 「俺がいるから、艦長を送るよ」 『ルシオさんですか。わかりました。お願いします』 「――っ!」 藍澄が驚いたのは、雪乃の言葉にではなく、ルシオがまた藍澄の手を握ったからだった。 「はーい」 云って、にこっと藍澄に笑いかける。そして通信を切ると、 「ここ、出るまで、繋いでていい?」 と小さく問う。 ルシオの優しく、力強い手のひらの温度が戻ってきたことを幸せに思いながら、藍澄はうなずくのが精一杯だった。 End091119up ルシオが書きたくて、いやBLもどきは書いてたんですけど、やっぱりヒロインとのも書きたくて頑張りました。ずっとルシオの読み物探していたんで他にあるのも知っているんですが、ある意味自給自足。そして一年弱行方不明だったのが見つかったので、恥をさらしました。 |