【終わって始まる日に】

「ねえ、ティーチャー」
 カズキの言葉に、アキラは顔を上げた。
「なに?」
 目を合わせると、明るい口調と声の割にカズキの表情が暗かった。少しだけ優しく問い返せばよかったかもしれないと考える。
「――もう、リッケンはいないんだけど」
 カズキが、大げさな日常でも心の中でも、自分のサブスタンスのリッケンバッカーを大切に思っているのは知っていた。
 しかし、彼はもういない。
 まさか自分にゆだねられているとは思わなかった世界の選択で、アキラはカズキを選んだ。そういった世界の選択とは全く関係なくカズキを選んで、赤の世界は消滅した。青の世界に興味を持ち、こちらの世界に協力してくれた、彼のサブスタンスであるリッケンバッカーも、住人であるがゆえに、消滅した。
 世界はあっけなく、青に傾いたのだ。
「うん…………」
 リッケンバッカーは自分によく懐いてくれた。サブスタンスでもなにを話しているかいまいちわからなかったけれど、アキラに向けられた好意は疑いようもなくまっすぐで無邪気だった。
 だから、哀しかった。カズキやライダーほどではないが、リッケンバッカーや他のサブスタンスたちの消滅を悲しんだ。
「リッケンはミーの心の中に、フォーエバーステイしているような気がするよ」
 ぽつんと呟くように云うカズキはアキラよりもずっと大きな身体をしているのに、子供みたいだった。思わず抱きしめたくなるが、体格差からも難しいので、力なく落ちたカズキの腕にそっと自分の腕をからめた。
「そうなの」
 そんな印象のままカズキに語りかけたのか、つい子供を諭すような云い方になる。
 その腕に、カズキは空いてる手を乗せて、力なく笑って言葉を継いだ。
「うん。リッケンみたいなトークは出来ないけどね。ミーはリッケンの独特のトーク、とってもライクだったよ」
 ――独特なら、カズキくんもそうじゃないのかな。
 けれど話し方で云うなら、それぞれに特徴的だった。そう思うとさみしさがこみ上げてくる。
「もう、いないんだね」
 カズキの腕に頭を持たせかけて、アキラがつぶやく。
「ひじょーにバッドバッドなことにね」
「リッケンは、初めから私に懐いてくれたのに……」
 初めて会った日を思い出す。
 彼らと過ごした日々は濃密過ぎて、実際の月日より経過しているような気がしてならない。
「そうなんだ。珍しいね、リッケンは割と人見知りするのに、ね」
 カズキの言葉にアキラは薄く笑った。
 あの時もそう云われた。そう云ってくれたほとんどが今はいない。
「初めて挨拶をした時は、飛びかかられたわ」
 アキラがつぶやくのに、カズキは目を輝かせた。
「それはミーも見てみたかった! それでリッケンと一緒にミーもティーチャーに飛びかかるのさっ!」
 リッケンよりも大柄なカズキも加わることを想像して、アキラはくらりとする。
「2人はさすがに体勢保てないからやめて………」
 あの時、リッケンですらギリギリだったのだ。
 その時のことを思い出し、それにカズキを加えての想像から離れると、カズキは真摯な表情で自分を見ていた。
「ミーとリッケンは、間違いなく、パートナー、だったんだね」
「え………?」
「ミーもティーチャーに初めて会った時、ビビビッてなにかが来たよ。リッケンもきみにそれを感じたんだ。そして僕たちのそれは、運命だったんだ………」
 深い、絆がある。
 ただその先はぷつりと途切れてしまっている。
「リッケンの分も、貴女を幸せにする」
 十分に愛されているのに、これ以上もらったら申し訳ない気がする。けれどもその多い分がリッケンバッカーの分なら、それを受け入れるまでだ。アキラは微笑んだ。
「ありがとう、カズキくん」
 カズキはにっこり笑った。
「マイハニーは世界が第一だから、ミーたちをハニーの第二位にしてくれればいいよ」
「もちろん、第二位よ。――ごめんね」
 赤の世界は消滅した。けれども、それできっと終わりではない。そういうものなのだ。
「じゃあ、ミーは世界の平和が続くように曲を作るよ。もっとも、これは平和よりもリッケンたちヘ捧げる曲ばかりだけど」
「リッケンはカズキくんの曲が大好きだったから喜ぶわ」
「そう願うよ」
 云ったカズキの表情は遠く、リッケンバッカーを思っているのがよくわかった。
 ちぎれた絆。けれどもカズキが生きる限り、その先にいた相手をずっと想うのだろう。
 その強さが、アキラにはとても眩しく見えた。
 end 101020up

私の中のアキラが強い子すぎて、『うらやましい』までは云わせられない罠。ED見直さず、勢い(LAG食堂でカズキ部屋に入った感動で)で書いたので、いろいろ矛盾があるやも。