【帰り道】


「あれ、甘粕くん」

 声に、甘粕は立ち止まって振り返る。
 歩いて数歩のところに、アキラがいて、目が合った時にはもう横に来ていた。

 ――気配を気取られないのが僕なのに、不意をつかれましたね。
 心の中で思ったことはなんとなく悔しいので云わない。

「教官」
「これから戻るとこ?」

 もう夕暮れに近い。他の人間はともかく、甘粕は今日の役目を終えて、自室に戻るところだった。補佐という役割は、特に集団とは離れたスタンスにいることが多い。それを不満に思ったことはない。

「ええ。教官もですか?」

 アキラの手に、バインダーなどがあることを認めて、甘粕が問うとアキラは頷いた。

「じゃあ、ちょっとの距離だけど、一緒に行こうか」
「…………」

 その言葉に、甘粕はじっとアキラを見つめた。
 甘粕の様子に気付かないアキラは歩を進めようとして、ふと甘粕を見て、その動きを止めた。

「――甘粕くん?」
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしていました」

 すい、とアキラから顔をそらして、甘粕が云う。

「どうしたの? ……もしかして、私、なにか変なこと云った?」

 いぶかしい表情で問うアキラに、甘粕が首を振る。

「いいえ。そんなことはありません――そういえば教官、今日ちょっとこの資料を見て思ったのですが……」

 甘粕が云いながら、自分の持っていた資料を開いて見せる。夕暮れでもまだ闇が訪れない程度なので、アキラはその手元を覗き込んだ。

「どうしたの?」

 その様子に、甘粕はほっとしつつ、その資料についての考察を告げる。しかし心の中で思っていたのは、別のことだった。


 ――教官と補佐なのに、今の僕たちはまるで、放課後一緒に帰る同級生のようです……。


 確かに互いに年齢としては学生の身分である。けれども負わされた任務は、特にアキラは重い。
 だからつい一歩引いた感じで接してしまうけれども、ほぼ同じくらいの女の子なのを改めて思い知らされる。
 けれど、甘粕のなにかが引っ掛かって、あまり考えないようにしてきたのだ。
 それをあっさり偶然が打ち崩していく。
 その考えに思い至って、甘粕はアキラの顔が見られなくなってしまった。そのための苦肉の策だったのだが、実際に考えていたこともあり、話は弾む。甘粕もアキラの顔を見ないで、資料を覗き込むアキラの後頭部だけ見ていればよかったので、少しほっとした。
 結局その短い道程は資料についてのディスカッションになってしまった。

「興味深い考察ありがとう。私も部屋に戻ってもう一度検討してみるわ」
「お役に立てたようでなによりです」

 甘粕の言葉に、アキラは破顔した。

「良い補佐を持ったことは教官冥利に尽きます。じゃあ、また明日ね」
「―――! はい、また明日」

 やはり自分たちで、教官であり、補佐である。
 しかし、甘粕の中にはほのかな甘さがいつまでも残っていたのだった。

 end 101104wrote 101110up



ヒロの誕生日話が難航して、代わりに一気に書き上げた。ついった用に書いてたので、気楽に書けたのもあるかな。