【おまえが眠るまで・ビラール編】

 休日は一緒に過ごすことになっている。普段の学生生活においても、共に過ごすようにしているが、それだけでは足りないとビラールは常々思う。
 ――それでも、ルルは私に「急ぎ過ぎるのはよくない」という。
 我慢しているのも良くないと思うのだが、それでもファランバルドにいるような女性を選ばなかったビラールは彼女の意思をとりあえずは尊重している。
 その代わり、休日はルルの時間を独占し、ルルに独占されている。
 けれども今日のルルは少し気分が悪そうである。なにかに思い悩んでいるような、体調が悪いのを隠しているような印象を受ける。もしかしたら今日に関しては、恥ずかしがるルルの気持ちを慮っての湖のほとりという選択は間違いだったかもしれない。
 ビラールの膝の上に少し居心地悪そうにしている彼の妃はそうされていることに対してではない様子で少し上の空だった。
「我が妃は何に憂えているのだ」
 一緒にいるのはやめたくないので、場所の移動くらいは考えつつ、ビラールが問うとルルが見つめ返す、その瞳が少しうるんでいて、ビラールの胸が痛くなる。
「ビラール……」
 ビラールは安心させるように微笑みかけて云った。
「私に隠し事をしても無駄だぞ」
 魂の半分を分け合う契りを交わした。すべてとは云わないが、ある程度のことならわかる。それは彼女とて同じことだ。
「ふふっ、そうね。あんまり隠していたわけじゃないけど……、昨日徹夜しちゃって」
 その言葉で、なにで徹夜をしたかもわかってしまった。これは契りで共有した部分でなく、ビラールの記憶である。
 ――課題を出されたことに、ため息をついていた……。
 それを終わらせたら朝だったというところか。
 そこまでして自分のために時間を確保してくれようとしてくれたことがうれしい。
「ほう、かわいらしいことだ。私との時間のために頑張ってくれたのだな」
 ビラールがルルの頭を撫でつつ云うのに、ルルが目を見開く。
「そこまでバレちゃってるの!」
「ああ、無論。私と妃が同室ならば、2人で力を合わせて課題を片付けられたものを。早く同じ部屋で片時も離れず過ごしたいものだな」
「え、えーと……それはまだ早いと思うの」
 さりげなく提案したのだが、寝不足で思考が鈍っていても、やんわりと断られた。心の中でそっと苦笑するが、それも我が妃、と誇らしく思ってしまうのは惚れた弱味かもしれない。
「そうか。けれど私は少しでも早く妃と生活を共にしたいぞ」
 重ねて思いを伝えると、ルルの眉が寄った。
「…………」
 その部分を一気に攻め立てるのもいいが、結局学校側の許可が下りないので、無理な話だ。困りつつ、ビラールと共にあることを少しは望んでいてくれることを確かめたかっただけだ。
 ビラールは引くことにする。
「まあいい。許可がまだ下りぬからな。さぁ、もっと近くへおいで」
 ビラールはルルを抱えて、自分の体勢を変えると、ルルを招く。
「え……?」
 戸惑うルルに、ビラールはゆったりと微笑んだ。
「いつかのように、妃を抱いて、共に眠るとしようか」
「えっ!」
 ルルの頬が赤くなる。そういう姿をかわいくいとおしいと思いながら、ビラールは言葉を重ねる。
「恥ずかしがらなくてもいい。お前が眠くとも、私はお前を片時も離す気はないからな。もっとも、病なら対処は別だが」
 病に倒れたなら、自分に移してほしいと思うほどの強い想いは自分の立場ではどうにも出来ない。それでもあらゆる治療を施したいとは思う。
「ビラール……」
「さぁ、妃よ」
 ゆったりと横になったビラールの手招きに、ルルはうれしそうに笑って彼の身体に寄り添った。
「――ふふ。やっぱりビラールの腕の中って安心する」
 無防備な言葉と仕草に、ビラールは少し戸惑う。
 ――もっと深く、と願うのは、私だけなのだろうか。それとも妃がまだ幼いからだろうか。
 彼女を選んだリスクとしてはそういう面にある。
 愛しいと思ってもなかなかそういう面で踏み込めなかった。そういうふうに自分に似合わない自覚もありつつ押さえているものがあふれそうになる。
「妃……」
 腕の中で力を抜いて目を閉じたルルが、そっと云う。
「2人の時はいつも近いのは恥ずかしいけど、いやじゃないの」
 滅多に云わない言葉をくれるのも、彼女が眠いからなのだろうか。
 ――それとも……許してくれるということだろうか?
 ルルを抱きしめる腕の力を強めた時、言葉が重ねられた。
「こうやって、大事に…してくれる…のは……幸せ……」
 腕の力が抜けた。ビラールは天を仰ぐと、ちょうどよく彼の精霊が現れた。
「あら、今日は無垢なる姫が勝ったのね」
 やりとりを見ていたのだろう。無邪気にうれしそうな声で云われる。
 確かに、あれは勝利だろう。ビラールは口の端を上げた。
「そうだな。しかし彼女に負けるのは、いいな」
 それから腕の中の感触が目を覚ますまで、ビラールはその寝顔を飽きることなく見つめたのだった。
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 会話文の方は先に出来ていたけど、ちょっと遅くなってしまいました。殿下はもっとこうだよなぁ、と思いつつ、まぁ蛍版てことで。