【貴女が眠るまで・エスト編】


 休日の午後、ルルとエストは湖のほとりにいた。
 今週も一緒に過ごすことにしたのだが、午前中は補習にはならなかったものの、その代わりに課題を出されていて、土曜もが頑張ったのだが終わらず、午前中はエストに付き合ってもらって課題を終わらせた。
 そんな週末であったために、外出許可を取っていなかったルルと、エストは湖のほとりで2人の時間を過ごすことにした。
「ごめんね、エスト」
 ルルに謝られて、エストは少し考える。すぐに思い当たったのは、外出許可のことだろう。
 ――別にどこでもいいのに。
 取り立てて、自分でなにかしたいと思うことがない。最近は少し変わったが、それはほとんどルルに関してだ。
 彼女がいれば用事がある以外に行かない街に、あてもなくぶらぶら歩いてもとても華やいで見える。ルルがあちこちに興味を示すのに辟易するそぶりは見せても、こういうものが好きなのか、と思ったりする。
 ――だから、彼女がいなければ、僕には特に意味がない。
 今のように湖のほとりでも自習室でも、エストは場所を気にしなかった。それなのでエストは首を横に振る。
「いいです。特に用があったわけではないし」
「そうね。街であちこち見るのもいいけど、私、エストと一緒ならここでもいいかな!」
 うれしそうに笑って、握っていた手に力が込められる。
 課題頑張ったご褒美、などと云って、ここに座る時に握られてしまった。結局口では文句も云えるが、実際にされてしまったら、エストは振り解けないのだ。
 手を繋いでのんびりと湖を見つつ、今日のルルはあまりおしゃべりではないな、と感じた。エストのいろんなところを触りつつ、まくしたてるようにいろんな話をするルルの声を、嫌いではない。むしろ好きだ。本人には云えないのだけれど。
 ――それに、繋ぐ手の力が、抜けている……?
 それらを総合すると、エストはある結論に達した。同時にルルが呟くように云った。
「眠い」
 やっぱり、と思いつつ、エストは内心苦笑しつつ、ほんの少しだけ握る手に力を込めて云った。
「いいですよ、眠って」
「……いなくならない?」
 本当に眠いのだろう。いつもより舌足らずな声は、甘えるような響きを持っている。心深く揺すられる。けれどもそれは出さない。悟らせない。
「なりません」
 ただ答える声が諭すような優しい響きを持ってしまった。
 しかしルルは気付かないのか、重ねるように問いかける。
「起きるまで、そばにいてくれる?」
 なにより、一緒にいられる時間がいい。無理して起きてもらっても嫌だし、ルルが眠ってしまっても一緒にいられるなら、そばにいたかった。
「本を読んでますから大丈夫です」
 それにルルは安心したように息をつき、それからエストの方に身を乗り出して云った。
「膝枕して?」
 さすがに、平静は装えなかった。
「――なに、云うんですかっ!? するわけないでしょう」
 最後の言葉でなんとか平静に戻るが、心臓の音はなかなかおさまってくれない。
 そんなエストに向かって、ルルはぷう、と頬を膨らませる。
「ケチ」
 眠る話がどうしてそうなったのか、エストはぐるぐる考えるが、ルルに対して理詰めで行くのが間違っているのだ。はあ、と大きくため息をついて、云った。
「ケチで結構です。もう寝るなら早く寝てください!」
 するとルルは意外にもにっこり笑って、あっさり引き下がった。
「うん、わかった。――あのね、エスト」
 呼びかけながら、あきらめるようにエストの方に自分の頭を持たせかける。了承も得ていないのにあまりに自然な仕草で、エストは振りほどけずにそのままにしてしまった。
「なんですか。まだあるんですか」
 密着することでまたも早く鼓動を打ち始めた心臓の音に負けないような冷たい口調で問う。
「私が寝てる間、襲ってもいいけど……」
 ――えっ!? 今なんて云ったこの人はっ?
 自分から寝込みを襲えなんて、彼女らしいというか、心の準備は出来てないというか、いや、それより、もう少し慎みを持ってほしい、と返すべきか。
 思考だけはやけに冷静で、しかしエストはもう何も云い返せないほどに動揺していた。
「〜〜〜っ」
 ふふ、待ってるね、と小さな声で、またもエストを混乱に陥れながら、ルルは重ねて云った。
「それ、起きてる間もしてね」
 云い終わると本当に寝入ってしまったルルの重みも感じながら、エストはルルが起きるまでの間、本の一ページも開けられないほどにぐるぐる悩み続けたのだった。
 end 110217up

初ワンドはエストでした。FDなければ、多分違う人から始めてたかも。短め、というか15会話だけ打ちこんで、それを適当に膨らませたので、短いです。