【きみが眠るまで・ユリウス編】


 湖のほとりで過ごすことにしたのは、両者の攻防で勝利したからである。
「ええっ、街へ行くの? 俺、今週はルルのこと、もっと静かな場所で見たいなって思ったんだけど」
 恋人は表情のくるくる変わる人で、一緒にいてうれしいのはもちろんだが、一瞬で変わる表情を見ているのも飽きないし、なによりかわいい。
 ルルは少し困ったように、どうしても街へ行きたいと云ったので、ユリウスも頷いたのだが、前日になって、予定変更のパピヨンメサージュが来て、ユリウスの希望が通ったのだった。
 それはうれしい。けれども、ルルに関しては少しだけ他のことよりもするどくなったユリウスはその変更に少しだけ疑問を抱いていた。
 ――なんでかな。
 そういうふうに予定が変わることなんて、今までなかったから、さすがに少しだけ不思議だ。
 そして翌日、ユリウスはその変化をはっきりと知る。けれどもなんとなく聞きそびれて、2人は湖のほとりに着いた。
 並んで座ってユリウスはルルの顔を覗き込んだ。少しルルが顔を赤らめるが気にせず、頬に触れた指を目のあたりに持っていき問うた。
「今日は目が少し赤いね、ルル。なにか哀しいことでもあった?」
 ルルのことならどんなことでも知りたい。
 ――もし、俺がルルを哀しくさせたり、淋しくさせたりしてたらどうしよう……。
 時折、ルルとの間にすれ違いが生じる。なるべく減らしたいと思っているのだが、なくなったりはしない。
 しかしそういう時は前兆があるから、ユリウスはとても驚いた。
 けれども、ルルは首を横に振った。
「違うの、徹夜で課題をやってたの」
 答えにほっとする。
 ――でも課題だったら一緒にやったのになぁ……。
 提出は週明けだろう。だからそんなに無理しなくてもよかった。
 そう思うけれど、心はもうルルを抱きしめたくなるくらいあたたかくなる。
 ――だって昨日頑張ってくれたってことは、今日俺と勉強じゃなくて過ごしたいって思ってくれたってことだから。
 そのルルの気持ちがうれしい。とはいっても、現実として、ルルは眠いのだ。ユリウスは少し考える。
「そうか。じゃあ、今日はもう休んだ方がいいけど、俺とルルの時間は始まったばかりだから、帰すなんて出来ない。困ったなぁ」
 正直に云うのに、ルルの眉が少し困ったように変わる。
「ユリウス……」
「俺、今日をすごく楽しみにしてたんだよね。君と過ごせて、君だけを見ていても怒られなくて、いい日だから」
 本当は今日のために頑張ってくれたルルがかわいくて仕方ない。ルルを気遣ってあげたいけれど、今日を過ごしたい気持ちは一緒だから、眠るために別れるなんて、出来ない。
 にこっと困った表情のルルを見ると、少し頬が赤くなる。これはユリウスが見つめすぎるから恥ずかしいらしい。
 ――俺は見られても、うれしいだけだけど。
 そういうところもかわいいと思ってしまう。
「――あんまり見つめられても困るんだけど」
「うん、困った顔もいいね」
 素直に云ったところで、少しだけ我に返る。最近身につけた技である。
 ついルルに夢中になってしまうので、どうもルル個人を優先出来なくなってしまう。
 ――え―と、ルルは今日のために頑張ってしまって眠くて、俺はルルを手放したくなくて、多分ルルもそう思っていて………。
 考えながらも、言葉が口を出る。
「………。あ、ごめん。また俺、自分のことしか考えなかった。えーと君は眠くて、俺はでもまだ一緒にいたくて」
 状況を自分に云い聞かせるように説明するのに、ルルも頷いた。
「ユリウス、私もまだ一緒にいたい、わ」
 そのルルを抱きしめたくなって、ユリウスは閃いた。
「うれしい。そうだ、じゃあ俺が君を抱きしめてて、眠ったらいいと思うんだ」
 ルルの目が驚きに見開かれる。しかしいつもなら拒否されるのだが、この思いつきはルルのなにかをついたらしい。
 少し考えて、それからルルがおずおずと云った。
「そ、それならいいけど……あんまり強くぎゅうっとしないで、それから、……あんまり見ないで」
「無理。」
 こんなに近くに愛しい恋人がいるのに見ないなんて、それはいくらなんでも哀し過ぎる。はっきり云って拷問だ。
「えっ、」
 ユリウスの即答に、ルルの眉はまた寄ってしまった。
 ――でもルルには寝てもらいたい、んだよね。
 ユリウスは穏やかに微笑んで、諭すように云った。
「でも君が眠るまでは我慢しててあげる」
 それが精いっぱいの譲歩だ。これ以上云われたら困ってしまう。そう思っていたが、ルルはおとなしく頷いた。
「ありがと……ね、ユリウス」
 もう眠いのかルルの声がユリウスのなにかを揺さぶるような響きを帯びる。ドキドキしつつ、身を寄せるルルに、問い返した。
「なに?」
「あんまり触るのも、禁止しておく」
 寝入ったルルの顔やいろんなところに触れながら、幸せに浸ろうと思っていたのに、釘を刺されるとは思わなかった。
「えー、そんな!」
 抗議に叫ぶと、ルルは潤んだ瞳でユリウスを見て、云った。
「肩は借りるけど、お願い……」
 そうしてユリウスにそっともたれるように身を預ける。その重みが、ユリウスを幸せにさせてしまって、ユリウスは譲歩することにした。
 ――俺はルルに勝てないんだ。
「うん、わかった」
 その言葉にルルは安心したように、すぐに寝息を立てた。
 眠っていても、ユリウスの恋人は彼を飽きさせず、そして最高に幸せな気持ちにさせるのだった。
 end 110223up

 ユリウスはFDやってから、ルルをベタベタに甘やかして、べたべたに甘えるシチュエーションに萌え萌えしてます。とはいえ形にするのは難しいです。