【おまえが眠るまで・ラギ編】
今日の休日はラギの祖父と祖母が送ってくれた燻製肉をルルと裏山まで食べに行くちょっとしたピクニックになった。
彼女はとても食いしん坊で、食欲旺盛のラギと気が合う。祖父と祖母の送ってくれる燻製肉も、それはもうおいしそうに食べてくれた。その姿は意外にもラギの心を打って、それ以来、燻製肉が送られてくると必ずルルを呼んで食べることにするようになった。
回数を重ねているから、互いに慣れたもので、ついでに天気も良くて、2人は満たされる。
他愛もない話をしながら、ルルの会話が返ってくる間が長くなったことに、ラギは気付いた。
――なんだよ、オレといるの、楽しくないってか。
そう思ったが、どうやら少し事情が違うようだった。
返ってくる答えの言葉が少し甘くなっている。うまく云えないのだが、少し甘えるような響きを持っている。
少し考えて、ラギはルルに問うた。
「――眠いのか」
ルルはハッとしたように目を見開き、それからしゅんとした様子で頷く。
「うん、ごめんね。ラギ」
休日の前、ルルが眠くなることの要因を考える。ラギの知っている理由は一つだ。
「また徹夜して課題でもやったのか」
「うん……」
それならもっと早く云ってほしかった、と思うが、今日のために頑張ってくれたことを思えば、それも云えないし、ルルが素直に認めたことで、さっきまで拗ねていた気持ちも霧散している。
――肉もうまかったし、ルルも持ってきたマカロンもうまかった。
ラギは思って、云った。
「寝ていいぜ」
ルルは驚いた表情で、ラギを見つめる。その瞳が良く見れば少し赤い。
「ラギ………」
ラギはわざとにこっと笑って、空を見上げて云う。
「今日は天気もいいし、今うまい肉食ったばっかだし、寝てろよ」
「え、でも」
ルルは戸惑っているようだ。本当は眠いのにどうしてなのか、ラギには少し不思議だった。
「そんな遠慮すんな。いいよ、俺も一緒寝るし」
勝手に推測したことを提案するが、ルルの戸惑う表情はまだ直らない。今度はラギが戸惑った。
その視線を受けて、ルルは口を開いた。
「せっかくラギと一緒にいるのに、もったいない」
心臓が、飛び出すかと思った。
普段もルルはラギの心臓のことなんかお構いなしにとんでもない行動も言動もするが、これもラギの心臓を壊す勢いだった。
「お、おまえっ!」
――そんなに眠いの我慢して、何度オレとの時間、そんなに大事にすんだよっ! ……そんなかわいいこと、云うなよ……。
抱きしめられないけど、抱きしめたくなんだろ、と恨めしげにルルを見る。
その様子に気付かないルルが、ぽつり、と重ねるように云った。
「けどラギが一緒に寝るんだから、腕枕してもらえば……って、変身しちゃうよね」
少し淋しそうな表情で云われるが、さすがにそこに流されるわけにはいかない。
「〜〜〜〜っ! 変身する前に、出来ねーよ、んなこと」
それはレベルが高過ぎる。ビラールやアルバロならお安いご用、とばかりに請け負ってくれそうだが。
例え変身しなくてもそれは出来ないし、やってもらうことも、無理かもしれない。
ラギの言葉に、ルルのまなざしが強くなる。
「え。それは困る」
きっぱり云われて、表情も言葉も予想していなかったので、ラギは戸惑いつつも、問い返す。
「なんで困んだよ」
するとルルは、少し頬を赤らめながら、2人しかいないのに声をひそめて云った。
「変身しなくなったら将来的にはって思ってるお願い事だもの!」
――そういう先まで、考えていてくれるのか……。
それが、うれしい。
まだ選択は出来ないと云った。それでもルルはその限りある時まで一緒にいてくれるつもりなのだ。
思わず、変身する危険を負っても、ルルの願いを叶えたくなる。
けれども、とラギは考える。
――抱きしめるのならともかく、膝枕じゃ、変身したら意味なくなるんじゃねーか。
「………………。――とりあえず、今はやんねー、つか、やれねー」
それがラギの出した結論だった。
「そうだよね………」
案の定、ルルは肩を落とす。その腕を引っ張って、敷布の上に寝転がらせた。
「ほら、いいから寝ろ」
頭を押さえつけるようにするのに、ルルは少し抵抗する。
「あっ」
その手の力を少し緩めて、ルルの癖毛を丁寧にかきまぜるようにする。
「腕枕は出来ねーけど、す、少しだけならこうしててやるから」
それにルルは驚いたようだが、すぐに笑顔になった。
「うん、ありがと。ラギ」
素直に目をつむったルルが完全に寝入るまで、すっかり寝入ってからも感触から手が離せずにラギはルルの寝顔を見つめながらそうしていた。
end 110219up
タイムリーなことに、今日は別の人が唄うラギの中の人の曲を聞いてきました。会話だけ先に作って仕上げるお話、会話が出来た順から仕上げて云ってます。ここまでそろえて、キャラソンのトリオだ!と思いました。
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