「守る」
 その言葉に、彼女は驚いたように目を見開いて、自分を見つめ返した。
 わずかに上げた首が、細いことに、気付く。
「ま、守らなくていいよ、長門。あ、あたし、別に平気だし」
 今まで数値としてしか認識していなかった。
 彼女の、その存在を示す数値が、こんなにも頼りなく見えるなんて。
「駄目」
 自分の答えに、彼女はひどく驚いたように瞳を揺らした。その効果は予想していなかった。
「困らなくていい。涼宮ハルヒコにイレギュラーな効果をもたらすあなたに消えられた方が困る」
「………でも、長門がそんなにしなくても、あたしは自分の身くらい、守れる」
 困ったように云う彼女の手首をつかんだ。数値通りに手の中におさまる。かなり細い。びくり、と手の中で触れた肌が跳ねる。
「こんなに、細いのに」
 云った言葉に、彼女の心拍数が速くなった。
「細くなんかない。普通だ」
 答える声がわずかに震える。
 手の中にある手首を、人の男の力で、もう少し強く握りしめる。
「――つっ!」
 痛みに顔を歪めても、手の力はゆるめない。
「あなたは、俺の手を振りほどけない」
「そ、それはっ、おまえが人間じゃないから!」
「この力は、人間男子の力以上は出していない」
 淡々と返すと、彼女は困ったように顔をゆがめる。
「…………わかった、よ。おまえのいう通りにするから、離してくれよ」
 自分を睨みつけて云う彼女の頼み通りに、手を解放した。見ると、うっすらと自分の手の跡がついていた。
 それを見て、心がなんとなくざわめいた。
 その跡が痛むようで、彼女は手で、その跡をなぞる。様子が痛々しくて、どう言葉をかけていいのか考える。
「云うこと聞かなかったあたしが悪いんだけどさ、」
そんな自分の考えを読んだように、彼女が呟き、自分を見て苦く笑う。
「―――なんか、おまえに、約束の印、つけられたみてえ」
「―――っ!」
 予想もしない言葉に、胸のざわめきがもっと激しくなる。
「あなたの言葉は予想不可能」
「そうか? ………この跡が消えても、約束は守るよ」
 不本意だけど、と小さく足した彼女の言葉は潔い。だからこそ、涼宮ハルヒコも惹かれたのかもしれない。
「消えたら、また、つけてもいい」
「……それは、困るかな」
 そう云われたので、実行するのは止めることにした。
けれども、なぜか、彼女の手首に、自分の手形をまたつけてみたいと、淡く思った。




End 100123up あ、ありきたり〜。